昨年開催された「サンダンス映画祭」で史上最多4冠に輝き、「第79回ゴールデン・グローブ賞」では作品賞と上演男優賞にノミネートされた「コーダ あいのうた」。耳の聞こえない家族たちと健聴者として彼らを支える娘の繋がりを描く感動ドラマ。本年度のアカデミー賞作品賞の最有力とも言われる本作の最新レビューと、作品とサントラが訴え掛ける愛の形について考察を述べたいと思います。
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■監督:シアン・ヘダー
■主演:エミリア・ジョーンズ フェルディア・ウォルシュ=ピーロ トロイ・コッツァー マーリー・マトリンほか
■制作国:アメリカ・フランス・カナダ合作
あらすじ/解説
2014年にフランスで制作された「エール!」のリメイク。家族の中で唯一の健聴者である娘のルビーは、朝早起きをして家業の漁業を手伝い学校へ通う日々。そんな彼女は、学校の選択授業で合唱クラブを選び、人前で歌声を披露するよう教師から強要されるが緊張のあまり逃げ出してしまう。それでも歌うことが大好きなルビーは先生と二人三脚で、日に日に才能を開花させていき、名門大学への推薦入学の候補に抜擢されるなど順調な毎日を送っていた。しかし、耳の聞こえない家族とってルビーは通訳者であり大きな支えとなっていた。自分の夢と家族、どちらを優先させるのか葛藤するルビーが、たどり着いた答えとは…。
https://www.youtube.com/watch?v=u9nSyk8_lbk
「シング・ストリート 未来へのうた」のあいつが!
まず本作を鑑賞して最初に驚いたのが、ルビーとデュエットを組む男子高校生が、「シング・ストリート 未来へのうた」の主演フェルディア・ウォルシュ=ピーロだったこと。本作では2作目の映画出演となる彼だが、デビュー作から5年の月を経たちょっぴり大人の姿に変貌。持ち前の歌唱力はもちろん、女の子には不器用だが、誰よりも思いやりの心を持つ役柄に、彼の繊細な表情と演技がめちゃくちゃマッチしていました!
耳の聞こえない家族は娘の歌声をどのように受け止めるのか
物語で1つポイントになるのが、耳の聞こえない家族に対して、娘は歌に没頭するということ。娘が音楽で大学に進学したいと家族に訴えても、実際に歌声を聞くことができない家族にとっては上の空になってしまう。そんな彼女を家族はどのように応援するのか。その答えは、発表会のシーンに映っていた。発表会のシーンではルビーにスポットが当たるのかと思いきや、父親目線でカメラが周り、無音状態の中、ルビーの口が動いているシーンが続きます。このシーンでは最愛の娘の声が聞こえない、強いては晴れ舞台での歌声も耳には届かないという父親の現実が突きつけられます。その時、父親が目にしたのは、娘の歌声を聞いて、笑顔になったり涙を流している観客の姿。その姿で悟ったかのように、父親は娘の音楽の力に気付かされます。そしてその晩、彼は娘に対して「自分の為に歌ってほしい」と投げかけるのです。娘の喉仏に手を当て、振動を感じ取ろうとする父親の姿には切なすぎます。改めて自分は健常者ではないと感じる父親、しかし考えさせられるきっかけになったのは娘の歌声であり、耳が聞こえなくても娘からの愛情はしっかり届いていることが伝わる感動のシーンでした!
家族たちそれぞれが抱える人間ドラマ
本作では娘の人間ドラマはもちろん、父親や母親、兄が抱える心の葛藤の部分もそれぞれ描かれています。夢を犠牲にしてまで家族を支えて欲しくないと叫ぶ兄。兄は耳が聞こえなくても、兄らしいことをさせてくれと、家族の形に障害は関係ないと訴えます。母親は娘に、出産の際は健聴者で生まれてくることが怖かったという事実を暴露します。しかし、そこには自分の耳が聞こえないからこそ、娘と上手くコミュニケーションや関係を築けないのではないかという大きな不安が隠されていました。主人公だけでなく、家族全員に壁があり、それを乗り越えようとする姿に家族の絆を感じました。
タイトルが意味する「あいのうた」
本作の最大の見所は、ルビー役・エミリア・ジョーンズの歌声と、その歌が意味する”あいのかたち”です。中でも注目な楽曲は「You’re All I Need To Get By」と「Both Sides Now」。「You’re All I Need To Get By」は歌もいいですし、フェルディア・ウォルシュ=ピーロとのデュエットが存分に楽しめます!もう一つ、クライマックスで歌う「Both Sides Now」は曲調もいいですが、歌詞に注目してほしいです、特に2番目のサビの….「I’ve looked at love from both sides now From give and take And still somehow It’s love’s illusions I recall I really don’t know love at 」(今私は愛を両側から見つめている。与える側やもらう側から、あれやこれとね。でもそれが愛の幻影だと気付いたの。本当の愛のことなどわかっていなかったの)
ルビーは娘でありながら愛を与えることも貰うこともできる存在でした。それは健常者と障害者という複雑な家族構成が成し得ています。だがそれは幻影だと気付いた。つまりは両側から見つめる必要はない。だからこそ彼女は家族からの愛情に気付き、自分が進むべき道を進んだのだと考えています。
本作は楽曲、歌声、物語が非常にマッチしています!ぜひ自分のなり考え方を持ちながら映画を鑑賞してみてください!
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